桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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逢 [1]

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『想 -Prologue-』の続き、LUNA SEA の『Time Has Come』に inspire されております♪

息を深く吸って もっと深く 聞こえている鼓動
それでもまだここは それ程明るくない

"Time Has Come" - LUNA SEA

 薄暗い地下通路の中。石で出来た廊下を音も立てずに素速く走り抜ける影が一つ……それは背中に漆黒の翼を持つ黒髪の少年だった。外見こそまだ幼いがその眼光や鋭くまとう妖気もギラギラとした殺気を帯びている……彼こそ今や魔界中に名を知られる天才盗賊・夢魔黒鵺だった。彼はたった今、予告状を送りつけた標的の城に侵入している最中だった。スピードを緩めず走りながらも彼は、厳しい表情で周囲に気を配っていた。

(おかしい、見張りが一人もいないなんて…予告状出したのに、何でこんなに手薄なんだ?)

 いつもは大挙して待ち構えている兵士達が何故かこの城には一人もいない。不可解な状況を訝しんでいたその時、黒鵺は目前に、倒れている男達を見つけ慌てて立ち止まった。ピクリとも動かぬ彼等に駆け寄り、黒鵺の顔色が変わった。

「眠ってる……!」

 ギョッとして顔を上げると、目の前に続く宝物庫の扉は無防備に開け放されていた。

(まさか!?)

 男達を元の状態に転がし、黒鵺は宝物庫の中へ飛び込んだ。室内に踏み込み、彼はあっと声を上げた。

「“破邪の鏡”が、ない……!!」

 部屋の中央に置かれた陳列台は硝子が破壊され、既に空の状態だった。ぐっと唇を噛んだ黒鵺は、その台の上にある“ある物”に気がついた。宝があったはずの場所に白い薔薇で留められた、小さなカード……

「…“蔵馬”…!?」

 紙切れには小綺麗な文字で“蔵馬”と記されていた。

 翌昼。城下街の中心の市場にある薄暗い酒場はいつものように飲んだくれの男達でごった返していた。店の中央にある一番広いテーブルで、朝っぱらから朱い顔をした男達が大ジョッキを片手に噂話を繰り広げていた。

「聞いたか? 昨日朱麗城で“破邪の鏡”が盗まれたらしい。」
「知ってるぜ、入ったのは噂の蔵馬だそうじゃないか!」
「らしいな。いつものように白い薔薇と名前入りのカードを残していったそうだ。」
「キザなパフォーマンスだよなぁ。」

 濁声で騒ぎ立てる男達からそう離れていない隅の座席。頭からすっぽり灰色のマントを被った何やら怪しい人影が、店の名物であるセンドウサギの煮込み料理を口に運びながら噂話に聞き耳を立てていた。フードで隠れて殆ど見えないが、蝋燭の灯りで時折ちらちらと見える前髪は銀色に輝いている。人影は男達から料理に視線を戻し、手元のグラスを持ち上げた。

(…まさか街で自分の噂を聞くようになるなんて、二年前は想像もしなかったな。)

 グラスに注がれた紅い葡萄酒を眺め、ふと遠くなった眼差しは蝋燭の炎を照り返す鮮やかな黄金 <きん> の色……それは、二年前に故郷を飛び出し盗賊となった妖狐・蔵馬だった。

(……二年…長いようで短かった……。)

 そっと眼を閉じてみる。あの日高台から望んだ故郷の里の眺めが瞼の裏にありありと蘇ってくる……それは、彼女が最後に目にした故里の光景だった。

(あの日故郷を飛び出した“オレ”は、行く当てもなく街から街へと旅を続ける生活をしていた。婚礼衣装になる筈だった宝石を売り払い、しばらくは旅の費用を繋いだ。それが尽きる頃、初めて盗みを犯した。呆気ないほど罪悪感はなかった。入ったのは悪名高い奴隷商人の屋敷。何も考えず持ち出した調度品が驚くほどの高値で売れた。)

 今までの記憶が次々に蘇ってくる。ふと蔵馬はすえたような嫌な臭いの漂っていた盗品市場を思い出した。行き交う男共は一人で歩く女に無遠慮に嫌らしい視線を投げてくる……が、その市場こそ、当時の蔵馬にとって何よりの情報源だった。

(盗品を売りさばく闇市で、黒鵺の噂を聞くことが出来た。古文書や遺跡に記された古城の宝物庫破りを専門とし、一億以下の財宝では絶対に動かない。標的には必ず予告状を送りつけ、厳重に敷かれた警備を鮮やかに突破してみせる天才盗賊。加えて夢魔特有の美貌で街中の女の噂の的。しかし、実はまだほんの十代の少年だという…。)

 彼女はそこで、市場で質屋を営む男と交わした会話を思い出した。

『何処に行けば黒鵺に会えるかな。』
『ネーちゃんもヤツの追っかけかい? 黒鵺に会いたきゃ七番街で体売るのが一番だぜ。』
『えっ…!?』

 顔を引きつらせた蔵馬に、男はニヤニヤと下品な笑顔を見せた。

『ま、それが嫌ならあいつが予告状送った城で待ち伏せするこったな。それくらいしか確実な方法はねえよ。』
『…!』

(まだまだ足りなかった…盗賊としての知恵も力も、何もかも追いつかなければ黒鵺に会えないと思った。“経験”が欲しくて、わざわざ危険に身を投じるようになった。女の身は災難を呼び込むのに好都合だった。暴力的な男達は格好の訓練相手になった。近寄る男がいなくなれば次の街へ流れ、気付けば殺気を意識的にまとえるようになっていた。自分を“オレ”と呼ぶようになったのもこの頃……。)

 その時、彼女は腕にひりひりとした痛みを感じて眉をしかめた。生傷が絶えなくなったのも同じ頃からだろう。

(…そして、一年と半分が過ぎた。黒鵺はいつしか、魔界全土でも名の知られる盗賊となっていた。彼こそが雷禅や躯に次ぐ第三の勢力になる…そんなことを囁く者もあった。オレもようやく彼を追えるだけの経験を積み、後をついて回るようになった。『もう一度会いたい』……その想いが『彼のパートナーになりたい』という高望みに変わるまで、そう時間はかからなかった。)

2005-06-14 00:15

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