桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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邂逅 [26-03]

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まぁ、桜恋唄的な飛影の立ち位置ってこんなもんです (…)。

 殆ど面識がないと言いながら、蔵馬は躯のことをよく知っていた。そのことを指摘すると彼女は、かつて自分と彼女が魔界の覇権を争っていたことを話してくれた。

『実力差は埋めようもなくて結局、オレは人間界に敗走したんですけどね。その後まさか、あの黄泉が彼女達と張り合ってるとは思わなかった。』

 黄泉の名を口にして一瞬、彼女の目に影が差した。飛影はそれを見逃さなかった。

『その男、只の知り合いではなさそうだな。』
『……』

 水を向けるや否や、蔵馬はさっと笑顔に返った。底の見えない微笑。一見柔和で人懐こく、しかし実際は本音の周囲に高い壁を巡らせている時に浮かぶ、“笑顔の仮面”だった。

『御想像にお任せしますよ。多分、何を思い浮かべてもさほど外れないだろうから。』

 答えはやはり曖昧だったが、あまり愉快な想像にならない気がして飛影はそれ以上考えるのを止めた。ただふっと「黄泉は黒鵺という男を知っているのだろうか」という、些細な疑問が頭を過ぎった。途端、再び彼の胸にちくりと刺すような痛みが走った。

 ──いい機会だ──

 躯が男だろうが女だろうが、たとえ如何なる人物であろうと招きには応じるつもりだった。ただ逃げたかった。温和な笑顔の裏に見え隠れする、自分が知る由もない蔵馬の闇から目を背けたかった。

 その後飛影は躯の元へ身を寄せ、半年も経つ頃には彼女と記憶を共有し心を通わせるようになった。蔵馬が饒舌に躯を語ったのと対照的に、躯は飛影が“蔵馬”の名を持ち出しただけで険しい顔になった。それが彼女達の、飛影に対する温度差であることは明らかだった。
 そのうち飛影は自然と蔵馬のことを話さなくなった。徒に躯の機嫌を損ねるのもつまらないし、何より自分がその話題に触れたいと思わなくなっていた。知らぬ間に彼の中で二人の比重が逆転していたのだ。

「──じゃあ、そろそろ帰ります。何の準備もしてないから荷造りしないと。」

 蔵馬が沈黙を破り、飛影は意識を引き戻された。

「護衛が必要なら送っていくが。」
「大丈夫ですよ。妖力も取り戻したし、ここにも一人で来たわけだしね。」

 蔵馬は鞄を肩にかけ直し、ぼそりと言い添えた。

「あんまりオレに気を遣わなくていいですよ。皆色々心配してくれるけど、オレ自身は実はさほど深刻に考えてなくてさ。」
「なに?」
「オレは蒼龍妃とは違うからね。」

 蔵馬の目が一瞬、きらりと光った。

「彼女には貴方や幽助や桑原君のような仲間はいませんでした。逆に言えば、貴方達がいる限りオレが前世をなぞることはない。そう思いませんか。」
「!」

 飛影はぽかんと蔵馬を見つめた。蔵馬はふっと微笑し、くるりと彼に背を向けた。

「じゃあ、今度は会場で。躯に宜しくね。」
「な……」

 最後の一言は余計だ、と飛影は舌打ちした。
 夏だというのに深い山奥はすっかり冷え込んで、水面から白い霧が立ち上っていた。蔵馬の姿がその奥へ消えるのを見届け、飛影は先程の彼女の言葉を思い返した。霧がじわり周囲へ拡がるのと共に、彼の胸中にも複雑な思いが立ち込めていた。

(オレ達がいるからお前は前世をなぞらないだと? 馬鹿な……)

 彼には確信があった。自ら選んだ決別だ。今後自分が彼女の生に深く立入り、運命に作用するような事態は起こり得ない。

 ──だが──

 不意にあの、刺すような痛みが胸を過ぎった。もしあの時、蔵馬の過去から目を逸らさずにいたら。彼女の負う総てを甘んじて受け容れていたら。そうすれば、自分こそが彼女の運命を変える誘因となり得たのだろうか。

(フン……ないさ。)

 飛影は頭を振った。彼女に干渉しないと決意したこと、それ自体が運命だったに違いない。
 顔を上げ、彼は強く地面を蹴った。その姿が木立へ紛れ、沼の前には黒と白の入り混じった静寂が残された。

2011-09-24 19:43

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