桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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邂逅 [26-02]

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メイン4人の中では蔵馬の次に桑原クンが好き☆

「オレがあいつでもやっぱり、気まずいというか恥ずかしくて顔を出せないから。自分のこと好きで好きで仕方ない女の前で、あんな間抜けな死に方してさ。」
「……」

 返す言葉を見つけられず、飛影も水面に目を向けた。
 夜の沼は見る者を引きずり込むような深い闇に満ちていた。飛影はふと、その黒い水底で澱が舞い上がる様を思い浮かべた。もし、今の自分の心をこの沼に喩えるなら。水を濁らせるのは人知れず積もる、かつてこの女に寄せていた並一通りでない関心の名残だろう。

 ──それは“好奇心”と呼ぶには深刻な、しかし“恋”と呼ぶほど甘い感傷ではなかった。

 あの日、耶雲率いる冥界鬼との死闘の後。各々の居場所へ帰る道すがら、蔵馬の表情はすっかり平常と変わらなかった。仲間達のやり取りに時折声を立てて笑い、闘いの緊張感から解放されて心底寛いでいる様子だった。しかし飛影にはその笑顔が却って、彼女が心を閉ざそうと躍起になっているように見えた。
 幽助達と別れ二人きりになったのを見計らい、飛影は核心に斬り込んだ。

『……黒鵺という男、昔の仲間と言っていたな。』

 詮索を予め覚悟していたのだろうか、蔵馬の表情は拍子抜けするほど変化がなかった。

『ええ、仲間というか友人……親友でした。お互いまだ幽助位の歳の頃に知り合ってね。』

 一生のうちで最も多感な時期の親友、そう言いたいのだと飛影は理解した。ともするとそれ以上の存在だったのかもしれない……そんな憶測が脳裡を掠めた。

『どんな奴だったんだ?』
『例えれば桑原君、かな。』

 蔵馬は思案の間を挟むことなく答えた。

『桑原っ!?』

 想定外の比喩にぎょっとした飛影に、彼女は微笑を湛えて付け加えた。

『単純、格好つけ、理想主義者。正義感が強く頑固で、常に努力を惜しまない。そんなところがよく似てた。』

 「外見はさて置いて」と冗談交じりに言い添えて、次の瞬間、蔵馬はふっと空を仰いだ。

『!……』

 飛影は息を呑んだ。それは何気ない、しかしひどく無防備な表情だった。よく知った横顔が一瞬全く知らない人物に見えて、彼は言葉を失った。

 その日から、彼の蔵馬に対する見方は変わった。極悪非道と聞いた伝説の盗賊は、自らを省みず育ての母の幸福を願い、卑劣な輩は冷徹な怒りを以て断罪する、情の厚い人物だった。しかし、如何なる事態においても蔵馬は冷静だった。どれほど怒り、どれほど悲しもうと、彼女が激情に流され判断を誤るようなことは決してないのだと思っていた。
 しかしその彼女にも、触れられただけで取り乱す心の傷があった。長い歳月にも癒えなかった、未だ血の滲む生傷が。

 ──オレは何も知らないのだ──

 蔵馬の素顔を垣間見ると共に、飛影は彼女に深い隔たりを感じるようになった。彼女の痛みを理解し共感することも、途方もない喪失感を埋めることも自分には到底不可能に思えた。

 それから程なくして、二人の元に魔界からの使者がやってきた。蔵馬は旧知の黄泉に、そして飛影は一面識もなかった躯に招かれ魔界へ赴くことを決めた。気の置けない戦友達が馴れ合いを嫌ってしばし異なる道を行く、それが表向きの理由だった。しかし、幽助を含めて三人には三様の事情があった。

『オレは、過去に決着をつけに行くんだ。』

 蔵馬はそう言った。それを耳にして飛影は無意識に顔をしかめた。冥界の一件以来、彼女の口から過去という語を聞く度に、胸に針が刺さるような痛みを感じるようになっていた。

『貴方は?』
『退屈しのぎだ。他にあるか。』

 素気ない彼の答えに、蔵馬は何故か微笑を浮かべた。

『躯は女性なんですよ。知ってる?』
『なに?』
『オレも一、二度しか会ったことはありませんが、目の醒めるような美人でしたよ。いや、美人だったと言うべきかな。事情は知らないけど半身を薬傷で喪っているからね。』

 飛影は唖然として蔵馬を見つめた。「何が言いたいんだ」と喉まで出かかったが、既の所で言葉を飲み込んだ。問うてもどうせはぐらかされるのだろう。いや、端から深い意味などないのかもしれない。

『癇癪持ちで気紛れだから、くれぐれも彼女の機嫌を損ねないよう気をつけて下さいね。でも、貴方なら彼女と上手くやっていけるかもしれない。』
『? 何故そう思う。』
『初めて会った時の貴方と彼女の印象がそっくりだったから。荒んだ空気を身にまとって、でもその眼がひどく渇いてた。』

2011-09-24 19:41

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