桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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邂逅 [26-01]

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連載再開ー! しかし何故かいきなり飛影が出ずっぱり (^^;)。

 深い山奥の森の中。暗い沼を前にして、蔵馬は独り物思いに耽っていた。傍らから蜻蛉が飛び立ったのを合図に、彼女は視線を水面から手の平へと移した。旧い細工物の首飾りが輝いている。白金の座金から滴るように揺れているのは大粒の金剛石四つ。しかし一箇所不自然な間隙があり、間の石が欠けていることが見て取れる。
 そう、それはかつて彼女が黒鵺から譲られた“蒼龍妃の首飾り”だった。懐かしい記憶のよすがとして常に自らと共にあり、人間界に渡る時も傍らに寄り添っていた品。しかしあれは百年ほど昔のこと──

 激動の二十世紀が幕を開け、人間界では列強が植民地政策に明け暮れていた時代。蔵馬と霊界の闘争もまた重大な局面を迎えていた。彼女の指揮下には人間界に棲息する妖怪の他、霊界の真意を悟った人間の霊能力者も数多く含まれていた。しかし、急速な近代化が人間達から霊的な力を奪っていった。弱体化する組織は蔵馬の統率力を以てしてもどうすることも出来なかった。
 大日本帝国が日露戦争の勝利に酔い痴れていた頃、蔵馬は霊界との一大決戦に敗れ、多くの仲間を囚われた。しかし、彼女は手を尽くして捕虜全員の解放を勝ち取った。数多の交渉案も聞き入れなかった霊界を動かしたのは、彼女が最後の切り札として差し出した例の首飾りだった。

(恐らく霊界は、この首飾りに蒼龍妃が封じられていることを知っていた。だから人質との交換に応じたんだ。誰かが封印に気づき蒼龍妃を解放することに比べたら、オレとの小競り合いなど些細なものだと。)

 目を閉じて、昂ぶる鼓動を鎮めるように首飾りを胸に押し当てる。布を透かし、皮膚に金属の冷たさが伝わった。
 と、

「それが霊界から消えた秘宝か。」
「!」

 頭上から声が降ってきて、蔵馬は背後の大樹を見上げた。戦友・飛影が大枝に腰掛け、彼女を見下ろしていた。

「ええ。蒼龍妃が二十年間、伯翁氷穴の結界の中に隠していたんです。夢で彼女から在処を教えられて、魔界に来る前に回収してきました。」

 飛影は地面へ飛び降り、蔵馬の隣に立った。

「幻海の庵の近所か。灯台下暗しだな。」

 蔵馬は頷き、手の中の首飾りを見つめた。

「でも、妙な違和感を覚える。」
「なに?」
「何というか、昔より軽くなった気がする。」

 飛影が顔をしかめた。

「当然だろう。石が一つ落ちているんだからな。」
「物理的な話じゃなくてですね、」

 蔵馬が困ったように笑った。

「価値というか、凄味や輝きが褪せたように感じる。」
「蒼龍妃の念が解放されたからじゃないのか?」
「…… そうかもしれませんね。」

 気の抜けた返事をして、蔵馬はショルダーバッグのポケットからガーゼのタオルを取り出した。首飾りを二重三重に包み、彼女はそれをバッグの中へしまい込んだ。

「明日魔界に向かうのか?」
「補講があるから午後にね。貴方は一刻も早く魔界に戻った方がいいんじゃない?」
「何故。」
「オレが貴方のボスに恨まれるからさ。」

 飛影はギロリと蔵馬を睨んだ。躯の話題を持ち出す時、彼女は殊更嬉しそうな顔をする。

「……オレを冷やかす前に、お前はどうなんだ?」
「どうって、何もありませんよ。行方不明の誰かさんが出てこない限りはね。」
「!」

 飛影は身を縮めた。精一杯の反撃のつもりがとんだ藪蛇だった。蔵馬の声は笑っていたが、言葉尻が冷ややかだった。同じ口調のまま彼女は、尋問でもするかのように言葉を続けた。

「黒鵺が今何処にいようが構いませんが、姿を見せない理由は気になってます。あいつだけじゃないよ。貴方達もオレが目を覚まして以降、捜索に熱心じゃなくなりましたよね。」

 飛影は深々と息を吐いた。やはりこの女に隠し事など不可能だ。居場所をわざわざ問わないのも興味が薄いからではなく、とっくに真相を察しているために違いない。
 ……が、

「まあ、何にせよ黒鵺は自分からは姿を見せないでしょうね。」

 蔵馬がふと、語勢を弱めた。飛影が振り返ると彼女は遠い目で水面を見つめていた。

2011-09-24 19:38

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