桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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邂逅 [27-04]

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うちの鴉は前世でも苦労している気がする

 翡翠が素っ頓狂な声を上げた。

『お、お待ち下さい! そのような大それたことは決してっ……』
『そなたは嘘がつけぬ男だ。見ていれば嫌でも分かる。柳香も同じことを申していたぞ。』
『エ!? 違います、私は断じてそんな…… !!』

 懸命に否定していた翡翠は突如、口をつぐみ燐を見つめた。燐は机に頬杖をつき、全てを見透かしたような目で彼を見上げていた。

『……申し訳、ございません……。』
『正直で結構。』

 燐が笑いを含んだ声で言った。

『そなたが惑うのも無理はない。父上が狂い、私と兄上が奪い合う女だ。』
『し、しかし天に誓って申し上げますが、永遠様に不埒な真似をしたことは一度たりともございません! この想いすら御迷惑になると、胸の内に留めてきたのですから……』
『ふ、それだけ顔に出ていれば口にせずとも悟られているだろうな。』
『!』

 赤くなったり青くなったり忙しない翡翠の顔を、燐はさも面白そうに眺めていた。

『翡翠、』
『は、はい。』
『そなたは何故、然したる腕力もなく策を弄する以外に能のない私がこの戦乱の世、君主でいられると思う?』
『……は?』

 突然の問いに、翡翠は怪訝な顔をした。

『一体、何のお話で……』
『私自身は、信頼に足る人物を即座に嗅ぎ分ける能力があるからだと思っている。幼い頃から何故か、言葉を交わさずとも分かるのだ。その者が忠義に厚き者か否かが。』

 そう言いながら燐は、ちらりと翡翠を見遣った。

『!』
『翡翠、そなたは私が今まで出会った者達の中で最も生真面目で義理堅く、そして程よく臆病者だ。私の大切なものを預けるにこれほど相応しい人材は他にない。』

 翡翠は複雑な顔で燐を見つめた。その顔にやおら深い影が差した。

『……それほどまでに私が陛下の御信頼を頂いているとしたら、尚のこと心苦しいのです。その、陛下への恩義と永遠様への情火に挟まれ、思い余って自分を律することの出来ぬ状態になりはしないかと……』
『面白い男だな。臣下の身でありながら、主の妻が恋しいなどと馬鹿正直に懺悔するとは。』

 燐が笑い出した。翡翠は再び紅くなった。

『ですから、今後も私を用いて下さるのなら、私がそのような過ちを犯さぬようお取計らいを頂けないかと申し上げているのです。』
『その必要はない。』

 燐は笑顔を崩さぬまま突っぱねた。

『ですが!』

 なお食い下がろうとした翡翠を、燐は首を振って制した。

『そなたが過つことは有り得ない。何故なら、』

 燐は真直ぐ翡翠を見上げた。そして、念を押すように低くささやいた。

『他ならぬ永遠が、それを望まぬことを知っているからだ。』
『!……』

 翡翠が目を見張った。燐は徐に立ち上がった。そして、立ち尽くしている翡翠に歩み寄り、その肩に手を掛けた。

『私はそなたを信頼している。これからも、永遠を頼むぞ。』
『…… 承知致しました。』

 うつむいたまま、翡翠はただそう答えた。

2012-10-01 21:03

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