桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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邂逅 [27-03]

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「宦官」については Wikipedia を御覧下さい(物語に関係ないけど

『でも、私は弟の幼い頃しか知りませんので、永遠様がどうお感じかまでは……』
『構わぬ。私は永遠を信じている。永遠自身はあの男を避けているのだから、咎める理由は何もない。』

 秘かに翡翠は安堵した。が、燐は厳しい表情を崩さなかった。

『だから私も、これまで敢えて素知らぬふりをしていた。だがあの男の方に何か企みがあるというなら、黙って見過す訳にはいかない。』

 燐の瞳が刹那、ぎらりと輝いた。

『!……』

 翡翠は思わず身震いした。彼は、燐のこの眼差しが苦手だった。凍るほどに冷たく、見つめられた者を丸裸にするような厳しさ。普段は穏やかで人当たりのよい燐が垣間見せる、冷酷無比な治世者の本性だった。

『そもそもあの男は何者なのだ。ここに来るまで何処で如何なる暮らしをしていたのかさえ判らぬ。我が軍の優秀な諜報部隊を以ってしても、あの男の素性を明らかに出来ないのだ。』
『確かに謎の多い男です。稀代の人材であることは疑いようもありませんが、だからこそ何故あの才が今まで世に出てこなかったのか……。配下の者とも私的な交流は全く持たないようで、疾風軍の兵に尋ねても勤務時間外のことは何も聞き出せませんでした。』

 須臾は国王軍加入後すぐさま頭角を現し、僅か一年で司令官、すなわち軍事に於いて国王・燐に次ぐ地位を得た。彼は率先して危険な戦場で功績を挙げ、早過ぎる昇進への周囲のやっかみを跳ね返してみせた。彼の重用を燐に進言したのは他ならぬ永遠だった。が、同時に彼女は夫に「あの者を妾に近づけないで下さい」と強く懇願していた。

 翡翠はしばらく考え、口を開いた。

『もし柳香殿の報告が事実であれば、須臾にその責を問うては如何ですか。他の男子が不在の場所で永遠様に拝謁するのは禁忌の筈です。』
『勿論私もそう考えた。しかし永遠に諮ったところ、今あの男を処分しても代わる者がいないと諫められてな。尤も、そうは言いながら永遠はひどく怯えていたが。』

 燐は不機嫌を露わにしながら答えた。

『須臾の階位はそなたと同じだ。しかし、そなたに許していることをあの者にも許した訳ではない。先程「次はないぞ」と釘は刺しておいたが、果たして効き目があるのやら。』

 燐の命により、王宮に出入りする男子は、近衛兵等が同席する場でなければ永遠への謁見を禁じられていた。しかし燐は、翡翠だけには特別に例外を認めていた。

『……あの、』

 沈黙していた翡翠が、思い詰めた顔で切り出した。

『実はその件について、陛下にお願いがあるのですが。』
『願い?』

 燐が顔を上げた。翡翠はやけに深刻な顔で、うつむき加減に言葉を続けた。

『その……以前から考えていたことなのです。私は数年前まで汞殿下に仕え、陛下の軍と刃を交えておりました。その私が妖術をお教えした御縁とはいえ、永遠様への自由な謁見を認められていることに疑問を持つ者も多いようなのです。』
『気にすることはない。私は有能な人材は誰であろうが登用する。忠順なる者には相応の待遇を以って応え、敵意を抱く者はそれを殺ぐよう心して使うまでのこと。そなたは永遠の師範であるばかりでなく、好き相談相手になってくれている。』
『私など軍の指揮権を頂くこと自体が分不相応です。それに不満を抱く者達が、私と永遠様について不名誉な噂を流しているらしいのです。』
『それなら何度か私の耳にも入っている。そなたと永遠が柳香もいない場所で二人きりこそこそ落ち合っていると、わざわざ密告しに来る者がいるのだ。』
『! 何と……』

 翡翠が顔を歪めた。燐はふっと微笑した。

『下らぬ。そのような小人は軍規で粛清すればよいのだ。そなたは部下に甘すぎる。私が代わりに処刑してやろうか?』
『と、とんでもない! 私事で貴重な戦力を削ぐ訳には参りません。そもそも私につまらぬ噂を立てられる隙があるのが悪いのです。ですので……』

 そこまで述べて翡翠は、次の言葉をためらった。しかし燐と視線が合い、彼は意を決して切り出した。

『……いっそのこと、私を宦官にして頂けないでしょうか。』
『なに?』

 燐はぽかんと翡翠の顔を見、続けて笑い出した。

『ははは、何を言い出すかと思えば! 宦官とは今時流行らぬ冗談だな。』
『冗談で申し上げているのではございません! 陛下の厚い御信頼は大変有難く思いますが、現状のままでは悪い噂も立ちましょう。』
『私は宦官なるしきたりは好まぬ。それに、美丈夫で鳴らすそなたを去勢したら私が王宮中の女官に恨まれる。』
『しかし私も男です。陛下は、私と永遠様を二人きりにすることに御心配はないのですか?』

 燐はじっと、思い詰めた翡翠の顔を見つめていた。次第にその口許に微笑が浮かんだ。

『翡翠、』
『はい。』
『そなた、永遠に恋をしているな?』
『……はい!?』

2012-10-01 21:02

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