桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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邂逅 [27-02]

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実は燐の子供云々の話の陰にちらっと伏線が

 燐の顔に乾いた微笑が浮かんだ。

『父上亡き今、真相を知る者は私と母に仕えていた侍女だけ……兄上や永遠にさえこの話はしたことがない。』

 思わぬ話に翡翠はぽかんと彼を見つめた。燐は再び、深刻な表情に返った。

『とにかく、そういう訳で永遠まで子作りで気を煩わせたくないのだ。』
『陛下……』
『頼む翡翠、このままでは自分があまりに情けない。何もねだったことのない妻が初めて心から願ったもの、夫として何としても叶えてやりたいのだ。』

 その時、遠くで火薬の炸裂する音が響いた。二人は思わず窓の外へ目を向けた。続けて何かが崩れるような、不穏な音が空気を震わせた。

 燐は音の方角を眺めながら、溜め息混じりに言い添えた。

『……それに永遠も、子を宿せば戦線に立つ気が失せるだろうからな。』

 翡翠もじっと、窓の外を見つめた。燃え上がる炎が遠くの稜線を黒く浮かび上がらせている。闇の中で時折白い光がぎらりと輝く。それは実際の戦闘ではなく、王都軍の軍事訓練によるものだった。

 燐がゆっくりと視線を室内へ戻した。

『永遠もあれに参加しているのか。軍事会議に顔を出していなかったが。』
『はい、恐らくは。』

 燐は顔をしかめた。

『困ったものだ、何も軍事会議の日に合わせて行うことはなかろうに。それとも、』

 突如、その眼差しが険しくなった。

『……やはり、須臾を避けているのか。』

 翡翠は、今度は何も答えなかった。

 須臾が国王軍に合流した当初から、永遠はあからさまに彼と顔を合わせることを避けていた。彼が燐に謁見する時は大抵席を外し、軍事会議以外で顔を合わせなくなった今も、その会議に何かと口実をつけて欠席を繰り返していた。

『翡翠、前回の軍事会議の最中に須臾が中座したのを覚えているか?』

 燐が再び問い掛けた。

『はい。確か、戦地から遣い魔が来るからと言っていたような。』

 翡翠は仕方なく、顔を逸らしたまま口を開いた。

『そうだ。そして永遠はあの日も会議に顔を出さなかった。』
『薬品が不足しているので大至急調合したいと、そう仰っていました。』

 燐は一瞬、間を置いた。

『実はあの時、須臾が炊事場にやって来て、永遠の様子を物陰から覗っていたらしい。』
『えっ!?』

 翡翠がぎょっとして振り返った。燐はいつの間にか、腕組みをして壁を睨みつけていた。

『侍女の柳香から聞いたのだ。永遠の手伝いをしている最中、気配を感じて振り返ったら須臾が入口の脇に突っ立っていたらしい。見咎められたことに気づき、あの男は直ちに姿を消したそうだ。まるで飢えた獣のような目つきだったと……柳香はそう語っていた。』

 翡翠は呆然と燐を見つめた。燐は苛立ちを込め、執務机の椅子に勢いよく腰を下ろした。翡翠はしばらく迷っていたが、意を決して口を開いた。

『その……確たることは申し上げられないのですが、』

 燐が顔を上げた。その顔色を確かめながら、翡翠は言葉を続けた。

『須臾は亡くなった、私の弟に似ている気が致します。』

 燐の表情には変化がなかった。それを見て翡翠は、彼が既にその辺の事情を察していたことを悟った。

2012-10-01 21:01

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