桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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邂逅 [27-01]

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汞と燐の母親も元素の名前だったりする (命名適当ですいません)

『翡翠、戦地に戻る前に少し相談に乗ってもらえないか。』

 蒼龍城の地下にある特別会議室。軍事会議を終えて部屋を後にしようとした翡翠を、国王・燐が呼び止めた。

『御相談、ですか?』
『内密の話なのだ。他言無用で頼む。』

 そう言いながら燐はやや強引に、翡翠を自らの執務室へ引き入れた。と同時に、廊下に立っていた衛兵にしばらく立ち去るように命じた。

 数百年に渡る革命軍と国王軍との戦争が、霊界と魔界の直接戦争へと発展してから早三年。魔界統一軍のうち蒼龍王・燐直轄の蒼龍国軍は今、三つの組織に再編され個々に軍事作戦を展開していた。各軍を指揮統制するのは、燐の妃・永遠、彼女の妖術の師範である翡翠、そして国王軍に志願加入した妖術師・須臾の三名だった。三つの軍はそれぞれ、最初に展開した地名にちなんで王都、氷河、疾風と呼び習わされていた。

 半年前に国王軍が現体制に再編された際、燐は、以後は領国に留まり内政に専念することを宣言した。そして王宮を含めた首都・龍苑の防衛には、彼の意向もあって永遠の指揮する王都軍が当たることとなった。氷河軍の司令官である翡翠は、戦況報告と軍事会議参加のため、極秘裏に一時帰還しているところだった。

『それで、御相談とは何でしょうか。』
『ん……ああ、』

 燐はいきなり窓を開け、周囲を落ち着きなく見回した。誰もいないことを見て取ると今度は入口の扉を開け、改めて廊下が無人であることを確認した。室内は元より二人きりだったが、殊更人目を避けるように彼は、翡翠に身を寄せやっと聞き取れるような声で切り出した。

『実は……その、子を作る為の秘術など知りたいのだが。』
『はい?』

 思いも寄らぬ言葉に翡翠が瞬いた。

『子って、子供ですか?』
『しーっっ!! 静かにっ!』

 さほど大声でもないのに、燐は慌てて恐ろしい顔で制した。翡翠は困惑気味に答えた。

『いやあの、妖術はそういった怪しげな“呪〈まじな〉い”ではありませんが……』
『別にそんなものは期待していないっ。特効薬のようなものはないかと訊いているのだ。妖術師ともあれば薬草学は一通り学んでいるだろう。』
『それでしたら、私の知識は全て永遠様にお伝えしております。御夫婦のことなら御夫婦で話し合われた方が宜しいかと思いますが……』
『それが出来ぬから恥を忍んでそなたに相談しているのだ。』

 燐はそう言って、ばつが悪そうに下を向いた。

『いずれ自然と出来るものと思っていたし、戦の方が忙しくてこの数百年ろくに気にもしていなかったのだが、永遠が最近になって早く子が欲しいと言い出してな。ならば本気で作ろうと思ったのだが、その……一向に気配がないのだ。』

 僅か三年前、戦況は蒼龍国にとって絶望的な状況だった。永遠は最後の望みをかけ、夫に泥沼の戦争から手を引くことを懇願した。直後に霊界の侵略行為が判明し戦争終結は叶わなかったものの、翡翠と須臾の加勢もあって戦局は持ち直した。そこで永遠は機を見計らい、夫に「そろそろ王宮に落ち着いて頂き、御子の誕生をお考え頂けないでしょうか」と切り出した。そう、それこそ彼女が以前口にした“三つの願い”の最後の一つだった。

『認めたくはないが、原因はきっと私の方にある。元より蒼龍家は子宝に恵まれない家系なのだ。亡き父上も後宮にあれだけ女をはべらせておきながら、結局私と汞兄上の二人しか子を残せなかった。』
『そんな、二人も御子がいらっしゃれば充分ではありませんか。王家に御世継が多すぎても無用な争いが増えるだけです。』
『……』

 燐は俄かに顔を曇らせた。

『そなた、市井で耳にしたことがないか? 兄上と私が父上の実の子ではないという噂を。』
『!』

 翡翠は遠慮がちに頷いた。

『……はい。あと以前、汞殿下からも伺ったことがございます。』
『元を辿れば父上の子を宿せなかった妃達の嫉みだったが、信じる者は王宮の中にも少なくなかった。確かに私達は父上に全く似ていないから、あながち空言でもないかもしれぬ。』
『でもそれでしたら、』

 思わず翡翠が遮った。

『逆に安心なさって宜しいのでは? もし陛下が先王陛下の実の御子でないのなら、父君の体質を受け継いでいない訳ですから。』
『そういうことを言っているのではないっ。』

 燐がぎろりと翡翠を睨んだ。

『申し訳ございませんっ……。』
『まったく、他の者なら不敬罪で首を飛ばすところだぞ。』

 失言をたしなめつつも、燐の方は平素から、巧言が不得手な彼をかえって好ましく思っている様子であった。

『つまらぬ流言に胸を痛め、兄上の母君だった正妃・沃〈よう〉様は早世された。私の母・珪〈けい〉も後宮で陰湿な仕打ちを受け続け、とうとう心を病んで自害したのだ。』
『!』
『尤も、体が悪いからと母の死は事故で片付けられたがな。』

2012-10-01 21:00

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