桜恋唄
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邂逅 [26-08]

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この辺の文章、25章と似ている…orz

『だが、宮廷に出入りする貴族の娘達にも私は何の関心も持てなかった。約束した期日が迫り、私は次第に焦り始めていた。宮殿にいると息が詰まる気がしてある日、私は伴も連れずに独り、城下街へ抜け出した。心は晴れず、私はずっと広場の隅で物思いに沈んでいた。その時、永遠に出会ったのだ。』

 燐はふっと息をついた。翡翠は身じろぎ一つせず、王の告白を聞いていた。

『出会ったというのは正確ではない。実際は私が、一方的に彼女に気付いただけだった。私は彼女を目で追うだけで、声をかけることさえ出来なかった。彼女はとても眩しくて……王子の私が平民の娘に気後れしたのだ。翌日もその翌日も私は広場に足を運んだ。しかし一度たりとも言葉を交わすことは出来なかった。思い余ってとうとう私は父上に頼んだ。遣いを送り、彼女を王宮に呼んでもらえないかと。』
『……』

 翡翠は無言だった。燐は大きく溜め息をつき、ゆっくりと頭を振った。

『それから先のことは私にも分からぬ。ひと月も経たぬ内にどうしたわけか、永遠は盗みの疑いで捕縛された。共に捕らえられた那由他は処刑され、永遠は父上の後宮に入った。全ては父上の策略だった。私が恋に落ちたように、父上もまた彼女に狂わされたのだろう。』

 森が風にざわめいている。翡翠は唇を固く結びじっと突っ立っていた。燐は溜め息と共に、絞り出すような声で呟いた。

『済まない……私が見初めさえしなければ、永遠は今頃そなたの弟と共に、異国の地で仲睦まじく暮らしていたかもしれない。そなたも弟と再会し、家族として幸福に過ごしていたかもしれない。私が犯した過ちは永遠にもそなたにも、未来永劫決して許されるものではないと……』
『いいえ、それは違います。』
『!』

 二人は振り返った。簡素な室内着姿の永遠が、燭台を掲げて立っていた。

『永遠!』

 燐の顔が蒼くなった。永遠の瞳は穏やかに夫を見つめていた。

『済まない永遠、私は……!』
『何故今までお話し下さらなかったのですか。どのような経緯であれ、妾を大切にして下さる陛下を憎んだりする筈がありません。』

 翡翠が見つめる中、永遠はバルコニーへ進み出た。卓の上に燭台を置き、彼女は夫の前へ立った。

『妾は今まで、苦しいのは自分だけと思っておりました。遠い日の記憶に縛られ、独りの時間に涙を零したこともございます。許しを請うのは妾の方です。陛下のお心遣いを知りながら、妾は今まで陛下に面と向き合うことが出来ずにおりました。どうぞお許し下さい。』
『そんな、悪いのは全て私だ。そなたが詫びることなど何もない!』

 燭台の炎が大きく揺れた。

『許してくれと言うつもりはない。ただ詫びさせてほしい。私の身勝手がそなたの運命を狂わせた。罪悪感に苛まれ、そなたを守ることがせめてもの償いと信じていた。そなたをこの王宮に閉じ込めることが守ることなのだと、そう自分に言い聞かせていた。』
『お止め下さい。那由他があのような形で命を落としたのも、妾が王宮に入ったのも、全て運命だったのです。陛下に咎はございません。』
『外に出られなくても好きな物を与え、美しい衣装や宝石で飾っていればそれでそなたは幸福だと思い込んでいた。私は魔界中から最上の物を掻き集めようと躍起になった。最上の衣装、最上の宝石、最上の食物に最上の酒、全てを手に入れようとするあまり、私は次第に狂っていった。他の償い方も分からず、そのくせ自らの過ちを打ち明けることさえ出来なかった、そんな愚かで浅ましい男なのだ。』

 燐はいつの間にか項垂れていた。永遠はじっと夫を見つめ、小さく首を横に振った。

『いいえ、妾は何も分かっておりませんでした。陛下の苦しみも知らず、ただ寂しいと愚痴を零すばかりで、妾の方こそ悪い妻でした。』
『永遠、』
『これまで妾と陛下はずっと、本音で語り合ったことがありませんでした。今陛下のお言葉を耳にし、ようやく互いの心が通った気がいたします。ですからどうぞ、これ以上妾に頭を下げないで下さい。』
『!……』

 燐は顔を上げ、不安げに妻を見つめた。永遠の眼には夫への憐れみと、固い覚悟が同居していた。夫に微笑んだ後、彼女はゆっくりと、突っ立っている翡翠を振り返った。

『!』

 眼差しに触れて何故か、翡翠の身がすくんだ。永遠はふっと視線を落とした。

『初めてお会いした日から先生には不思議な親しみを抱いておりました。先生は那由他のお兄様だったのですね。』
『……ええ、縁とは不思議なものです。本当に……』

 翡翠は目を逸らしつつ答えた。

2012-01-05 21:01

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