桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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邂逅 [26-07]

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登場予定はないんですが那由他には母の違う兄がいます (これが紫の前世という設定)

『お、お待ち下さい陛下! 本当に、私と永遠様はそのような関係では……』
『別に男女の仲とは申していない。ただ以前からの知己なのだろうと訊いているだけだ。』

 燐もバルコニーへと足を踏み入れた。涼しい風が二人の髪の隙間を吹き抜けていった。

『そなたが霊界から逃れ助けを求めてきた日、永遠が出した香草茶の色が私とそなたの器で違っていた。そなたの嗜好を知った上で淹れ分けたのだろう。』
『!』
『それに、永遠の妖術は贔屓目を差し引いても素晴らしいものだ。女の細腕をあれほどまでに育て上げるのは、優れた指導者であるそなたしか成し得ぬ。』
『……』

 流石の翡翠も、燐の慧眼に観念した。

『永遠様は、最初は蒼龍国の王妃というお立場を隠して私のところにいらっしゃいました。私達はそれぞれ、敵軍の者同士ということすら知らぬまま顔を合わせていたのです。』
『私は油断していたな。そういえば永遠は、父上の妃だった頃にも兄上に連れられ街へ抜け出していた。柳香の他にも見張りをつけるべきだったか。』

 燐が喉を鳴らして笑った。翡翠は狼狽した。

『お許し下さい! 永遠様はただ、陛下と国を護られたいとの一心で……』
『別にそなた達や柳香を咎めるつもりはない。ただ、自分は愚かだったと思い知らされた気がしてな。』

 バルコニーの柵に手をかけ、燐は眼下の暗い森を見つめていた。

『私はずっと、危険だからと言って永遠に自由行動を許さなかった。しかしそれは父上のやり方と変わらなかったのだな。口惜しいが永遠は、そなたがここに参ってからの方がずっと溌剌としている。』
『いえ、永遠様は陛下への隠し事がなくなり肩の荷が下りたのです。もし快活になられたのだとしたらそれは、陛下に本当の御姿を認めて頂けたからでしょう。』

 燐がじっと翡翠を見つめた。その眼差しにふと、影が落ちた。

『……ならば、私もそろそろ重荷を下ろす頃か。』
『えっ?』
『私にも、これまで胸の内に隠していた秘密がある。私は永遠に、そして、そなたにも詫びねばならない。』

 翡翠が怪訝な顔をした。

『何のお話ですか。』
『那由他という名の、吟遊詩人のことだ。』
『!』

 翡翠は動揺を押し殺し、用心深く聞き返した。

『それは一体、どういう……』
『隠すことはない。そなたの素性はとうに調べがついている。治療師の父と旅芸人の母との間に生まれ、当初は母親に育てられていたものの、妖術の才があったために跡取りを欲していた父に引き取られたそうだな。そなたには父の違う弟がいた。その者は成人して帝都を訪れ、町娘だった永遠と恋に落ちた。』
『!』

 翡翠の顔がこわばった。燐は視線を逸らし、一言一言噛み締めるように言った。

『一つだけ言い訳させてほしい。私は当時、本当に何も知らなかったのだ。永遠と那由他の仲も、那由他にそなたという兄がいたことも。ここからは私の懺悔だ。聞いてくれるか?』
『…… 伺いましょう。』

 翡翠は努めて冷静に答えた。燐は覚悟を決めたように、長い睫毛を伏せた。

『当時……まだ父上が御存命で、永遠が後宮に来る少し前。私はまだ十八の子供だった。子供ではあったが私には、父上の勢力拡大のために血族誕生の期待が圧し掛かっていた。父上には私と兄上以外の子が出来ず、兄弟縁者も父上と玉座を争い命を奪われたため、王族直系の子供は私達の他にいない状況だった。そのため父上や家臣達は、私達兄弟が早く妃を迎え子を作ることを期待していた。』
『……』
『しかし兄上は奔放なお方で、宮殿で大人しくしているような性格ではなかった。父上は兄上には早々から見切りをつけていて、私にばかり幾つも縁談を持ち込んだ。我慢がならなくなった私はある日つい、自分で伴侶を見つけると宣言してしまった。』

 燐は遠い眼差しで黒い森を見つめた。月の光がその顔を白く照らしていた。

2012-01-05 21:00

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