桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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Found It - 第4章 知らない男 [6]

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修学旅行の宿の光景みたいだ

 つららがすかさず遮った。

「待ってよ霧風、項羽は一番隊の戦士だよ!? 一度死にかけたくらいでトラウマなんて!」
「ならば他にどんな理由があるんだ。」
「知らないけど、絶対違うってば!」
「有り得ない話じゃないと思う。」

 凪が割り込んだ。

「さっき夢魔が言ってたんだけど、項羽じゃなかったらとっくに元に戻ってるだろうって。項羽ってほら、好き勝手なこと喋ってる風で実は全然本心見せないタイプだったじゃん。自分を律する力が強いから強烈に自己暗示かけちゃって元に戻れないんだって。その自己暗示にはきっかけがある筈だって、夢魔はそう言ってた。」
「そんな……」
「小龍達の前では黙っていたが、」

 私が再び口を開いた。

「記録をひっくり返したら昔、この里で同様の事例が何件かあったらしい。死線を潜り抜け戻ってきたはものの健忘に陥った例がな。記憶を取り戻した者も中にはいたようだが、精神に傷を負い二度と戦場に戻ることが出来なかったそうだ。」
「!」

 三人の視線が私に集まった。私は「あくまで私の考えだが」と断り、続きを述べた。

「あいつを無理に元に戻そうとする必要はないんだ。幸い今は不穏な気配もないし、もし何かあっても私達が盾になってやればいい。今まで一線で働いてきたんだ。戦えないならもう休ませてやればいいだろう。」
「霧風……」

 凪がじっと私を見つめ、小さく頷いた。

「やっと納得したわ。男共があんたのこと冷たいって言ってたけど、そうじゃないんだね。あんたは項羽を気遣って、危険な日常に戻したくないんだ。」
「まさか。」

 私は力なく首を振った。そんな優しい心など私は持ち合わせていない。私はただ、既に“項羽”ではない男に何の感情も持てないだけなのだ。

「……やだよ、霧風がよくてもあたしは嫌!」

 突然、つららが声を上げた。

「つらら?」
「嫌! 項羽が今のままなんて、絶対に、嫌っ……!!」

 顔を手で覆い、彼女は突如声を上げて泣きじゃくった。凪が手を伸ばし彼女の頭をそっと撫でた。総司はいささか驚いたように瞬き、すぐに私を一瞥した。

 ──何故泣くんだ──

 私も当惑しながら事態を見つめていた。度を失ったつららを目の当たりにし、胸の内に醒めた思いと羨望の思いが同時に湧いていた。忍である以上、人前で感情を露わにするなど決してあってはならないこと。しかし、喪失の悲しみを素直に表現できる彼女が少し羨ましかった。

「ならば、きっかけを探してみようか。」

 総司がふっと微笑した。つららが顔を上げた。

「きっかけ……?」
「もし引き金が恐怖だとしたら、項羽が記憶を封じている原因は自分が戦い続ける宿命にあるという、その事実だろう。私は以前の彼を知らないが、忍でありながら本音では命のやり取りを好まない男だったのかもしれない。極限状態の恐怖と厭戦の情が相まって、以前の自分に戻ることを拒んでいる可能性がある。」
「じゃあ、どうやって……」
「簡単さ。全部思い出す方がずっと幸せだと、あの坊やに分からせてやればいいんだ。」
「!」

 と、その時。

「さあ消灯時間だよ。お喋りはまた明日!」

 誰かの声がして次の瞬間、室内の灯りがふっと消えた。呆気にとられつつ、私達は仕方なく各自の布団へ潜り込んだ。

2009-06-14 09:00

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