桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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Found It - 第3章 桜の下にて [4]

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本作の裏テーマは「小龍と霧風の項羽に対する感情の差」でした

「当番か? お疲れ様。」

 小龍はすぐに笑顔に返った。

「こんばんは。」

 逆に項羽は緊張した面持で、弟の陰から頭を下げた。

 ──他人行儀はどっちだ──

 唐突に湧き上がる苛立ちを我慢し、私は二人に背を向けた。

「何だよ、オレ達の顔見るなり何処行く気。」
「人の居る場所を見回る必要はない。」
「相変わらず愛想がないヤツだな。」

 思わず睨みつけると、小龍がくすくす笑う陰で項羽は遠慮がちにこちらを見つめている。目が合った瞬間、私は露骨に顔を逸らした。

「! あの、」
「そろそろ行こう。じゃあな、霧風。」

 小龍が遮った。項羽はまだ何か言いたげだったが、小龍が袖を引っ張った。二人は闇の中へと消えていった。

「……」

 ようやく独りになり、私は深い溜息をついた。と、

「こら、項羽が怯えていたぞ。」
「!」

 振り返ると苦笑いの竜魔が立っていた。彼は渋い顔の私の前を横切り、桜の樹へ近づいた。さわさわと風が鳴り枝の先が震えている。目の前を花びらが掠めていった。

「何しに来たんだ。」
「オレに夜桜見物は似合わないか?」

 竜魔はすまし顔で答え、ちらりと私を見た。

「項羽はもっとお前と話したいらしい。だが拒絶されているようだと気にしていたぞ。」

 私は思わず顔をしかめた。

「一体何が気に入らないんだ。あいつが戻ってきて以降、ずっと避けているだろう。」
「そんなつもりはない。特に歓迎する必要もないと思っているだけだ。」
「そうか? オレはてっきり、小龍の次に喜ぶのはお前だと思っていたがな。」
「……」

 私は険しい顔のまま、竜魔に背を向けた。

「霧風、」
「さっき小龍が言っていた。自分は項羽の弟で、それは何があっても変わらないと。」
「なに?」
「でも私は小龍ではない。」

 私はゆっくり顔を上げた。白い花の塊が雲のように頭上に浮かんでいた。

「私は赤の他人だ。私と項羽の間にあるのは共有してきた時間の記憶だけだ。それが喪われた今、私達に通い合うものは何も残っていない。……私は、縁故のない男にわざわざ関わりたいとは思わない。」
「……」

 呆気にとられたのか、竜魔は何も言わなかった。思いを声にすればするほど何故か、心が空虚になるような気がした。確かに項羽の帰還は喜ぶべきことだろう。しかし失望、落胆はそれ以上に大きかった。

 ──あいつは何一つ憶えていない──

 日々の出来事、交わした言葉、そしてあの夏の日の約束……それならいっそ、あの時死んでくれていた方がよかったと、そう思うのは私だけなのだろうか。
 風が一陣、私達の間を駆け抜けた。黒い闇の中、白い花びらが一斉に舞い上がった。桜吹雪は音もなく、無数の羽根のように降り注いだ。

2009-06-14 09:00

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