桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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Found It - 第3章 桜の下にて [1]

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項羽は絶対宿題丸写しするタイプだろう…

「ほら、こっちが項羽でこれがオレ。毎年誕生日に一緒に写真撮ってたんだぜ。これは九つの時。この年は雪が凄くて、二日前にオレが吹き溜まりに落ちて足折っちゃってさ。正月もずっと松葉杖だったんだ。」
「……」

 積み上げられた木材に腰掛け、小龍がアルバムを開きながら懸命に説明している。項羽は困ったような、虚ろな表情で写真を見つめている。彼が風魔の里に帰ってきてから半月が過ぎた。当初すぐに戻ると思われていた彼の記憶は、夢魔の治療の甲斐もなく全く回復していなかった。

「必死だな小龍のヤツ。」

 釘を打ちながら兜丸がつぶやいた。

「何つーか、まるで項羽の彼女みたいだ。」
「こらっ、変なこと言っちゃ駄目ですよ兜丸さん!」

 障子を貼っていた麗羅がたしなめた。他の皆が建設作業に勤しむ中、項羽は独り、記憶を取り戻すための作業とやらに専念させられていた。里中を歩き回ったり休憩中の兄弟達に話を聞いたり、記憶を手繰るというよりは“項羽”という人間の足跡を辿っているだけのようにも見える。

「昔を思い出そうにも環境が悪すぎるぜ。元いた家はぶっ壊れてるし、私物は大半が瓦礫の中だしな。」
「霧風さん、同期のよしみで何かないんですか? 寺屋でも項羽さんと一緒だったじゃないですか。」

 麗羅が私を振り返った。私は即座に首を振った。

「私があいつに関わるような品を保管していると思うか? 第一、寺屋絡みならとっくに小龍が持ち出してるさ。」

 寺屋、すなわち学校のこと。項羽・小龍の兄弟と私は生まれた年度が同じで、教門も一緒に学んできた同期の間柄だ。項羽は日頃は弟の宿題を丸写しして何食わぬ顔をしているようなヤツだったが、試験の成績は常に上位だった。私達の学年は優秀な戦士が多く「当たり年」と呼ばれている。技と学に優れ顔にも恵まれた彼ら兄弟はその筆頭に違いない。

「焦ってどうにかなることでもないだろう。皆で寄ってたかって思い出話を吹き込んでどうするんだ。」

 吐き捨てるようにつぶやき、私は立ち上がった。

「ねえ兜丸さん、」

 歩き出した私の背後で麗羅が聞こえよがしにつぶやいた。

「霧風さん、ちょっと薄情じゃありませんか? 確かに項羽さんとは仲悪かったかもしれませんけど。」
「麗羅!」

 兜丸が慌てている。私は聞こえないふりをしてその場を離れた。

(確かに、そうかもしれないな。)

 彼の非難はあながち間違ってはいない。戻ってきた項羽に対し私は、自分でも驚くほどに冷淡だ。

 夜になり、私は独り静まり返った里の中を歩いていた。うっすら冷えた空気の中、夜風に乗って微かな花の香りが漂ってくる。今日はひと月に一度の夜警番の日。当番は一晩につき五名だが、外部との関である千尋谷を除き各所一人ずつの配置となっている。
 建設中の家々を通り過ぎ、やがて私は里の外れの野原に辿り着いた。田植えを控えた水田の傍ら、月灯りを浴びて一本の桜の樹が立っている。盛りを迎えた満開の花が暗闇に白く浮かんでいた。

 ──そういう季節なのか──

 花の下まで辿り着き、私は足を止めて樹を見上げた。近頃は様々なことがありすぎて季節の移ろいを気に留めることもなかった。誰が植えたのか、この山奥の里には珍しい染井吉野の古木だ。染井吉野は桜の中でも寿命が短い品種と聞いているが、少なくともこの樹は私の幼い頃と変わらぬ勢いで花を咲かせている。しかし、

(もう、葉が出ている。)

 私は思わず眉をひそめた。枝の先に小さな若葉が顔を覗かせている。白にも見紛う花の淡い紅に対して若葉の緑はあまりにどぎつい。染井吉野は八部咲きが最も美しく、満開を迎える頃には醜い終焉が見え隠れする。

2009-06-14 09:00

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