桜恋唄
幽遊白書・黒鵺×蔵馬中心、桜枝真央の同人的創作の館

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Lost It [5]

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小龍に置いて行かれそうだった霧風が彼を置いて行くまでの物語 (違)。

 小龍の顔がこわばった。私は殊更淡々と言葉を重ねた。

「この跡を辿れば多分そこに項羽はいる。もっとも、“項羽”と判別できる状態ならいいがな。」
「……」

 小龍は茫然と地面を見つめていた。私は無言のまま、痕跡が続く方角へと歩き出した。と、

「待って。」

 小龍が声を上げた。振り返ると彼は思い詰めた顔で項垂れていた。

「先に帰るか? 後は私が始末をつけておくが。」
「……いや、」

 小龍は首を振った。

「もう帰ろう。お前ももう、項羽を探さないでほしい。」
「何だと?」
「妙なことを言って済まない。ビビってる訳じゃないんだ。ただ……今姿が見えないなら二度と、見つかってほしくない。」

 怪訝な顔で私は小龍を見つめた。彼はゆっくり顔を上げた。

「霧風……オレ、項羽はまだ生きてる、そう思うことにする。」
「なに?」

 私は思わず瞬いた。小龍は小さく頷いた。

「だってあの項羽だぜ。きっとしぶとく生き延びてる。頃合を見計らって風魔の里に帰ってくる。そう信じたいんだ。もし戻ってこなくても何処かで生きていると……そう思い込まないと、オレの心が折れそうだ。」
「…… そうか。」

 私は肩をすくめ、敢えて切り捨てるようにつぶやいた。

「私はもう諦めるよ。戻らないヤツをいつまでも待ち続ける方が精神衛生上良くないから。」

 小龍が苦笑した。

「お前らしいな。」
「そうか?」
「ドライに振る舞って、内面ではきっと延々引きずり続ける。」
「……」

 私は思わず小龍を睨みつけた。彼が顔を上げ、じっと私を見つめた。

「霧風、」
「何だ。」
「お前……本当は項羽のこと、好きだっただろ?」

 困惑して小龍を見つめる。小龍はその目に淋しそうな、憐れむような微笑を湛えていた。

「…… まさか、有り得ないさ。」

 私は溜息を交えて答えた。項羽が私をどう思っていたのか、私が彼をどう思っていたのか、それは彼亡き今最早どうでもいいこと。ただ一つ疑いようもなく事実なのは、宝石のような想いのかけらが誰にも知られぬまま永遠に喪われたこと。それがただ、無性に悲しかった。

「帰るぞ小龍。兜丸と麗羅が私達を待ってる。」

 かじかむ両手をポケットに突っ込み、私は彼を置き去るように歩き出した。

【終】

2009-02-09 19:42

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